将来に備えつつ、節税も~事業主~

「利益もきちんと出るようになったし、そろそろ先の備えも考えようかな」
お客さまからそんなご相談をいただくと、税理士はすごくうれしいです。

この記事は全2回シリーズの前編です。
今回は、事業主のための「備え」
次回は、従業員のための「備え」
→ 「将来に備えつつ、節税も~従業員~」

もくじ

まずは第一段階突破、おめでとうございます!

創業直後、とりあえず立上げに必死の間は、当然こんな話は出ないです。それどころじゃないですから。
そこから数年たち、状況が徐々に安定してきたお客さまから「もし今、自分に何かあったらどうなるのかな?」なんて言葉がぽろっと出ると「おお、このステージがきた!」とちょっとうれしくなっちゃいます。

「こんな後ろ向きなこと考えたりして、変ですかね…?」なんておっしゃる方もいらっしゃいますが、全然、変ではないです。むしろ経営者として大変堅実で、重要な視点だと思います。
ぜひ、一緒に考えましょう!

経営者が倒れたら、事業や従業員はどうなる?

身体に血液が循環するように、事業ではお金が循環しています。

売上金が定期的に入ってくるからこそ、次の仕事や事業維持に必要な支払をして、従業員に給与も渡すことができます。個人事業や小さな会社では、経営者自身が大半の売上を支えています。

その経営者がケガや病気で働けなくなったら?さらには突然亡くなってしまったら?
当然、売上はその時点でほぼ止まってしまいます。

お金が入ってこなければ日々の支払ができません。それなのに、借入金返済や家賃などの固定費支払は止めることができません。従業員との間に信頼関係があったとしても、月々の給与が払えなければ従業員の暮らしは成り立たず、続けてもらうことが難しくなります。

回復するまでどうやって資金を保たせるのか?または自分がいなくなった場合に、取引先や関係者に迷惑をかけないように事業をたたむにはどの程度備えがいるのか?こういったことを考えておく必要があります。

経営者が倒れたら、家族の生活はどうなる?

家族の生活を支えている経営者の場合、考えるのは事業資金だけではありません。
事業の利益が途絶えたら、家族はどうやって暮らしていくのか?もちろん、今時は家族にも収入がある場合も多いですが、それでもひとり分の収入がなくなったら家計に大きな影響が出ます。当座の生活費や子どもが成人するまでの費用などはある程度考えておいた方がいいです。

事業を畳んだら、その後の生活はどうなる?

そんな心配が無事杞憂に終わり、事業をやりきって引退するとして、老後の資金もできるだけ確保をしておきたいですよね。公的な年金があるといっても、備えとしてはすこし不安です。年金を受取りながら、できる範囲で仕事も続けられるというのが自分の事業があるメリットですが、いつまで健康でいられるかはその時にならなければわからないので、準備はしておきたいところです。

それぞれの場合に備えた対応策があります

万が一の事態が起きたときにとっさに対処できるように、また経営者の引退後の生活のために、国は様々な施策を用意しています。加入を奨励する意図で、各制度の利用にあたっては税務上の優遇もあります。
以下、その節税効果も含めて制度をご紹介していきます。

ご説明するのは主に
・万が一の備え
_労災保険特別加入

_団信(団体信用生命保険)
_民間生命保険(共済)
_あんしん財団

・無事にゴールした後の備え
_小規模企業共済(小規模共済)

_iDeCo(個人型確定拠出年金)
_国民年金基金
_付加年金
です。

事業の「備え」、まずは上記の制度の中から必要なものにご加入いただくことで基本的な部分は網羅できます。では何が自分に必要なのか?これは後述する中でお伝えしていければと思います。

集中投下はおすすめしません

ご紹介する制度には、それぞれに異なる役割があります。
「これが一番重要」とか「これさえやっておけばいい」ということはありません。
将来どんなリスクが発生するかは、誰にもわからないからです。
そういう意味で、今使える資金を単独の制度につっこむよりは、今の状況で必要性の高い複数の制度に分散して保障を入れるの方が「備え」としては適切なご判断かと思います。

「何のために」を把握してから、加入しましょう

それぞれの方の置かれている状況により、必要な備えは変わります。
例えば長期にわたり扶養を必要とするご家族がいるならば、ご自身だけではなくそのご家族の生活基盤を支えるだけの資金が必要です。
一方、独身だったり、大きなライフイベントがひととおり済んだというご家庭であれば、事業と身辺を片付ける資金さえまかなえれば、それ以上大きな保障は必要ないかもしれません。
「自分にはどの程度の備えが必要なのか」の情報を整理してみましょう。

必要な金額を整理したら、次に、そのためにはどんな性質の資金が必要なのか、も把握しましょう。
「いざという時に、最低限の備えとして」という性質ならば、想定している通りの額を「早く」「確実に」払い出せる方法で備えるのが適切です。たとえば死亡の場合の生命保険などはこれにあたります。

一方で「すぐには必要ないが、将来増えていたらうれしい」という性質ならば、許容できる範囲でリスクをとって投資するのもありだと思います。たとえば数年~数十年積み立てる退職金などです。

これを整理しないまま、目についた制度に加入してしまうと、本当に必要な場面になった時に想定外の資金不足に足を取られる可能性がありますので、くれぐれもご注意ください。

でもまず、なによりも重要なのは手元の現預金です

将来の備え、述べたとおり、多彩な制度が用意されています。早く開始すればその分受けられるメリットも増えます。事業のご状況に合わせて積極的に活用していっていただくのには、賛成です。

ただ、そもそも手元に潤沢な事業資金があれば、多少のピンチに遭遇しても即座に対応できます。売上が止まったとしても、少なくとも半年程度は固定費を賄える現預金残高を確保することを最優先してください。

各制度は、この手元資金が経常的に確保できるようになった上で本格的に開始するのが安全です。というのも、ご紹介する制度はほとんどが、まず掛金を払込み、一定の要件が揃った場合に一時金または年金として引出せるという方式です。つまり、これらの制度を利用すると、先に資金は出て行ってしまいます。そして払出要件が揃うまで自分の手元に戻ってきませんし、自由に使うことができません。

自分の手元にある現預金と異なり、必要なときに思い通りに使えない可能性がある点は肝に銘じていただきたいです。日々の事業資金よりこのような制度を優先すると、本来の事業が滞る原因にもなりえます。「節税になる」という言葉に焦って、準備が整っていない状態で行動することのないようにご注意ください。

優先順位は?
「万が一に備える」各種制度をご紹介する前に、おすすめの検討順位を。

ケガの危険性が高い職種の方は、労災保険特別加入を最優先でご検討ください。金銭的な負担も低いです。
ご家族がいる方は、団信(個人事業主で借入がある場合)と民間生命保険を次にご検討ください。
あんしん財団はプラスαの安心のための制度です。最後に検討することでよいと思います。

労災保険特別加入
・制度の概要
業務上の災害に備えるための労災保険は、原則として雇用されている労働者が加入する制度で、個人事業主や法人経営者、その家族は加入義務がありません。ただ、希望すれば任意での「特別加入」が可能です。

・必要資金と効果
掛金は年間で2万円弱~10万円程度。労災事故があった場合の治療費全額支給、休業期間中の給付金や、障害が残った場合の年金・一時金・死亡した場合の遺族への年金・一時金等が補償されます。
職種にもよりますが、現場に立つ事業主の方にはご検討いただきたい制度です。

・税制上のメリット
特別加入分で払い込んだ労災保険料は、個人事業主の場合には全額「社会保険料控除」として所得税等の計算上所得控除されます。法人経営者の場合には、全額を法人税上の必要経費として損金算入できます。所得税・法人税の計算上、保険料×税率に相当する税額が削減される効果があります。

・注意点
補償の対象になる事故が「業務上」「通勤経路上」に限定されるため、事故発生の原因が業務外と判定されてしまうと補償がありません。業務外の補償には後述のあんしん財団等の併用をご検討ください。

なお、労災保険特別加入に関しては以前のブログでもご紹介しています。
→労災特別加入(個人事業主・法人)~加入のススメ~

団信(団体信用生命保険)
・制度の概要
事業用の借入をした事業主の方が加入する、少し特殊な生命保険です。
金融機関から融資を受けた事業主に死亡・高度障害など万が一の事由が生じた場合、その時点の借入残高については保険金から全額返済されます。そのため、ご家族等に返済の負担が残りません。

但し法人の場合、そもそも個人名義で借入をしていないので弁済義務は相続されず、家族には基本的に返済の義務がありません。この点、借入の契約状況にもよりますので、法人の場合には金融機関にご相談ください。

・必要資金と効果
2026/4現在、たとえば日本政策金融公庫で2,000万円の借入をして10年で返済するとすると、団信の保険料は10年で28万円程度となります。同程度の保障内容(死亡一時金2,000万円・保険期間10年)で一般的な定期生命保険に加入した場合、保険料は10年で40~60万円程度なので、団信で加入する方が割安で手軽です。

・税制上のメリット
団信の税制上のメリットは、ほぼないです。
生命保険の一形態ではありますが、個人事業主の所得税の計算上「生命保険料控除」の対象となりません(保険金受取人が金融機関であり、遺族ではないため要件を満たしません)。

法人の場合には掛金が法人税上必要経費になりますが、法人はそもそも団信に加入することがあまりありません。合わせて、法人税上は保険事故が発生した場合の「返済義務の免除」という事実が収益として扱われるため、掛金を必要経費した反面、保障に対して法人税の課税が発生しプラスマイナス0の効果になります。

・注意点
団信には、融資申込時点でしか加入できません。返済開始後に加入はできませんのでご注意ください。

団信についても、以前のブログで触れています。
→マル経融資、使える?使えない?
この記事では主に、日本政策金融公庫の団信について説明していますが、民間金融機関からの借入についても契約内容によっては団信を付加できますので、融資を受ける際必ず金融機関にご確認ください。

民間生命保険(共済)
・制度の概要
生命保険にはいくつかの種類がありますが、まず検討すべきは掛け捨ての定期生命保険です。

掛け捨て保険は、少ない掛金で大きな保障をつけることができます。保険期間も数年~数十年で切り替わるので、事業やご家族の状況に応じて適時に保障内容を見直していくことができます。

なお、同じ生命保険であっても、貯蓄型(養老保険や年金保険)については早い段階での加入はお勧めしません。掛金が高額で途中での契約変更が難しいためです。「早く入った方がリターンが大きいですよ」などと勧められると思いますが、定期収入が保証されていない事業主の場合、多額の掛金を払込む契約に毎月の資金を拘束されるのはとても危険です。まずは手元資金の確保を優先してください。

・必要資金と効果
必要な保障額を確保するための保険料は保険会社によって異なりますが、各社見積サイトなどを用意しているので、そこで必要保障額と年齢を入力すると、おおよその目安が確認できます。

では必要な保障額とは、いくらなのか?
詳細なシュミレーションソフトなどを活用すれば、家族のライフイベントや物価の上昇等を含めた詳しい試算が可能です。各保険会社の紹介するFPの方などに相談すれば、ご自身やご家庭の状況に合わせて、必要保障額を具体的な数字にしてくれると思います。

ただ、最初から難しく考えると、もうそこから進むのがめんどくさくなりますよね。
まず、すごく単純に考えてみましょう。
たとえば自分の身になにかあった場合、残された家族に毎月10万円、30年にわたって生活資金を残そうと考えたら、必要な金額は10万円×12月×30年=3,600万円となります。この際、物価変動とかは脇に置いときます。

この保障額を確保するためには、どのくらいの保険料になるでしょうか?
私の手元にある、とある保険会社のシュミレーションソフトで試算してみると、40歳男性・死亡時の必要保障額3,600万円・10年定期の月額保険料は、約1.1万円と出ます(2026/5加入の場合)。
1.1万円×12月=年間13.2万円を10年払うので、保険料の総額は132万円程度になります。
132万円払って、いざという時の保障3,600万円を手に入れる。これを高いと思うか?安いと思うか?

掛け捨てなので、払った保険料は返ってきません。でもこの保険料相当額を10年定期預金に入れておいても、利息込で150万円程度にしかなりません。確率は低いですが、もしもの時に132万円の掛金で3,600万円を残せるとすれば、安心料としては悪い買い物ではありません。

「いや、やっぱり掛け捨てはイヤ。確実に受取りたい!」という方のために、同じ保険金額で養老保険(満期または死亡により、必ず保険金がおりる契約)にした場合の月額保険料も試算してみました。
養老保険で40歳から60歳まで積み立てて、保障額3,600万円を手に入れる場合、月額保険料は約16万円。年額で192万円、10年で1,920万円です。

今、この金額を負担できますか?事業資金よりもこの支払を優先すべきと思いますか?

年齢と共に事業規模を縮小する場合もあります。子どもが巣立てば必要な生活費も変わります。
あと10年、20年経ったら、今ほどの保障額は必要なくなる場合が多いです。見直しは面倒くさいですが、その時々の余裕資金と必要な保障額を見極めていただいた方が、合理的な商品を選定できます。

・税制上のメリット
生命保険料は、個人事業主の場合払込保険料の一部について「生命保険料控除」として所得税等の計算上所得控除を受けられます。ただし「社会保険料控除」「小規模企業共済等掛金控除」とは異なり、控除上限額が設定されている点はご注意ください。保険をかければかけるほど所得税等が下がるという仕組みではありません。

生命保険料控除について詳しくは、こちらの記事へ
→家族名義の保険、生命保険料控除できますか?

また法人名義で加入する場合、受取人が法人であれば、払込保険料を法人税上の必要経費に算入できます。

・注意点
まず、掛け捨てであること、税制上のメリットに上限があることをご認識いただくこと。

それから、20代~40代でご家族の生活も支えている経営者の場合、必要保障額は、計算すると思った以上に高額な結果になります(億単位になることも多いです)。もちろん多額の保険料を負担できる状況ならいいですが、そうでない場合には、この際あまり必要保障額にはとらわれすぎず、現実的に負担できる範囲で、当座の事業や生活を乗り越える最低限の保障額を確保する、という妥協をするのも合理的な考え方ではあります。

あんしん財
・制度の概要
あんしん財団は、中小企業の福利厚生を目的とする一般財団法人で、1964年に設立された中小企業経営者災害補償共済を前身とします。国の運営ではありませんが、中小企業経営者の互助的組織から発生しているため、公共性の高い設計となっています。通常の労災保険では手薄となる補償をカバーできるのがメリットです。

また生命保険が原則として死亡を保障の対象とするところ、あんしん財団・損害保険は不慮の災害によるケガ・後遺障害への手当を主な対象としており、生命保険では手薄な範囲も補完できます。

・必要資金と効果
毎月2千円/人(年1.2万円)の会費で、業務中・業務外を問わずケガの場合の補償(死亡一時金が一律2,000万円、その他入院・通院・障害給付)を受けることができます。

また健康診断や職場の安全管理に必要な備品購入のための補助金、雇用主が従業員に損害を与えてしまった場合の使用者賠償責任保険、加入者対象の保養所等福利厚生サービスが付加されています。

・税制上のメリット
法人の場合、事業主分・従業員分ともに、会費を法人税上の必要経費に算入することが可能です。

一方個人事業主の場合には、従業員分の会費は所得税上必要経費に算入できますが、事業主本人分だけは必要経費にすることができません。またこの事業主分の会費は生命保険料控除の対象ともなりません。あんしん財団の補償契約は「生命保険」契約ではないためです。

・注意点
あんしん財団、一定の職業については加入資格の対象外となっています。
格闘競技、競争競技(競輪選手等)、プロスポーツ選手、潜水作業、花火製造、その他危険を有する職業。

上記に該当するなど、あんしん財団の設計が必要な保障内容と合わない場合には、個別の損害保険契約等で備えることになります。損害保険加入に関しては、保険代理店のほか、地元の商工会・商工会議所でも取扱いがあるので、お近くの窓口に相談されることをおすすめします。

優先順位は?
「引退後の備え、とりあえずなにか始めておこうかな」、この場合に一番気軽に始められるのは小規模企業共済(以下小規模共済)だと思います。少額から開始できて運用もラク、掛金相当の税優遇もあります。

ただご年齢がお若く、自分で資産運用することに興味がある場合は、iDeCoから始めるのをお勧めします。
期間が長い方がメリットが出やすいですし、資産運用しつつ掛金相当の税優遇も受けられて効率的です。

国民年金基金は、加入1口あたりの掛金設定が小規模共済・iDeCoに比べて高く、また終身年金であるため死亡年齢が早いと利回りが悪化します(反面、長寿になればなるほど割がいいです)。そういった面から、国民年金基金加入をご検討の方は、まず小規模共済で少額から積立を開始し、小規模共済が限度額を超えてしまう場合、追加での加入を検討されるのが順番として穏当かと思います。

いずれの制度も、途中で金額変更は可能なので、まずは最低額で始めてみて、手元の余裕資金を見ながら徐々に運用額を増やしていくのをおすすめしています。

小規模企業共済(小規模共済)
・制度の概要
中小事業主の引退後の生活資金確保を目的として国が出資して整備している共済です。運営母体は中小企業基盤整備機構(以下中小機構)。加入できるのは個人事業主・法人経営者またはその家族。従業員は対象外です。そのため一般的に「経営者のための退職金制度」といわれています。

・必要資金と効果
掛金は1千円~7万円/月の範囲で500円刻みで任意に設定できます。
また、加入や払込終了、受給開始の年齢に原則として制限はありません(但し廃業・退職の事実がない場合の要件内払出は65歳以降)。

加入者が払い込んだ掛金は中小機構が運用し、退職または一定年齢(65歳)以上となったことを請求事由として、加入者からの要請に基づき運用益を含めた返戻金を払い出します。
運用益の予定利率は現状平均1.0%前後と公開されていますが、この数値には要件外の払出(途中解約など)に対する低い返戻率も含まれているので、要件内払出の場合の運用益はもう少し増えます。

掛金に応じた受取予定額は中小機構の提供するサポートサイトで試算できます。
→共済サポートnavi 共済金試算

例えば40歳で・3万円/月の掛金を65歳まで積立て、年齢要件を満たして払い出した場合、受取予定額は1,025万円程度。掛金合計は3万×12×25年=900万円ですから、25年間での返戻率は単純計算して114%です。

受取予定額については、一時金または年金(10年or15年)いずれかで受取ることができます。この受取方式は共済金払出のタイミングで好きな方を選びます。ふたつの方式を組み合わせて受取ることも可能です。

所得税上、受取った一時金は退職所得、年金は公的年金等に係る雑所得として扱われます。いずれの所得区分も一定の非課税範囲が設けられている所得のため、受取時の課税を緩和することができます。

一方、万が一加入者が事業継続中に死亡した場合には、遺族に死亡時点までの共済金が支払われます。これは要件内解約と取り扱われます。この死亡共済金は相続税の規定上死亡退職金となり課税対象ですが、相続税の規定上も一定の非課税枠(500万円×法定相続人の数)が設けられています。

なお、少しイレギュラーな用途とはなりますが、加入期間中は、払込済掛金×7割程度まで低金利での貸付を受けることができるため、少額資金を短期で借入れる手段として利用することもできます。

・税制上のメリット
年間掛金の全額が「小規模企業共済等掛金控除」として所得税等の計算上、所得控除の対象となります。小規模企業共済等掛金控除は、生命保険料控除と異なり、掛金全額が控除の対象となる点が大きなメリットです。

たとえば所得税の税率20%の場合(課税所得330万~695万円)、年間36万円(3万×12月)の掛金について所得控除を受けると、36万円×20%=7.2万円の所得税を削減できます。

・注意点
受取の際の注意点として、払込期間20年未満で要件外解約をした場合、元本割れリスクがあります。特に短期間で解約(加入後半年未満の廃業、1年未満の要件外解約)した場合、返戻0(掛け捨て)となることがあります。
一方、半年以上積立後に要件内払出する場合には、元本が保証されます。

また運用益に関わる注意点として、当初設定した掛金を途中で減額した場合、減額部分の元本については運用が停止します(=それ以上増えない)。少額から始めて、余裕資金の増加に合わせて徐々に掛金を増やしていく運用が望ましいです。

iDeCo(個人型確定拠出年金)
・制度の概要
経営者に限らず、広く国民全体の資産形成を支援するため整備された国の制度です。運営母体は国民年金基金連合会。加入できるのは20歳以上65歳未満(2026/12以降は、70歳未満に改正)の公的年金の被保険者、たとえば自営業・会社員・主婦(夫)・学生など、日本国内に居住するほぼすべての国民が対象です。

国民が義務として加入している各種公的年金制度(国民年金、厚生年金または共済保険等)全体の上乗せとして設計されている制度であるため、大元の公的年金の種類に応じて限度額などの取扱いが少しずつ異なります。

なお公的年金の上乗せ制度には、大企業が自社従業員等のために法人負担で出資・運用する「企業型年金」制度もあるため、個人が自己資金から出資・運用するという意味で「個人型」という名前がついています。

・必要資金と効果
こちらは小規模共済(1千円~)より少し初期設定が高く、5千円/月~から掛金を設定できます。
掛金上限は加入者の属する公的年金の区分により異なりますが、個人事業主(国民年金)の場合には6.8万円/月、企業型年金制度の設定がない中小法人経営者の場合には2.3万円/月(2026/4時点)です。金額は1,000円刻みで任意に設定できます。

なお掛金の上限額については現在制度改正が予定されています。個人事業主(国民年金)のは6.8万円→7.5万円/月、中小法人経営者は2.3万円→6.2万円/月です。2026/12から施行となる予定です。

加入を希望する場合は、まず運用口座を置く金融機関(運営管理機関)を自分で選定し、口座を開設します。運営管理機関は現在160機関程度から選択できます。具体的には公式サイトをご確認ください→運営管理機関一覧
主に証券会社と銀行が並んでいますが、機関ごとに取扱い商品は異なります。一般的には選べる投資商品の品揃えが多く、手数料が低廉な機関を選ぶことがおすすめです。

口座を開設したら、次に毎月の掛金をどのような商品に、何%ずつ配分して運用するかを自分で決めます。
選べる商品は元本確保型商品(預金・保険)または元本変動型商品(投資信託)。
この2種類を組み合わせることも可能です。特に投資信託は、商品によって運用内容が国内株式・国外株式・債券など多種多様なので、自分の選択によって様々な市場への分散運用が可能です。

逆に言えば、「どこで、どうやって」運用するかを必ず自分で判断して選定しなければならない制度です。最終的な払出額も自分の運用成績次第です。「いくらで何年かけたら、払出額がいくら」が保障されていないのが、iDeCoと小規模共済・国民年金基金の大きな違いです。ただiDeCoの運用成績次第では、小規模共済等の運用を大きく超える資産を形成することも可能です。また、通常は金融投資で生じた利益には売却の都度所得税が課税されますが、iDeCoの場合には売却益が出ても最終的な受取までは課税の対象となりません。

受取は、60歳以降から可能で、75歳までには払い出す必要があります。受取は小規模共済と同様、一時金または年金(5~20年の任意の分割年数)いずれかで受取ることができます。受取方式は払出のタイミングで好きな方を選びます。ふたつの方式を組み合わせて受取ることも可能です。

所得税上、受取った一時金は退職所得、年金は公的年金等に係る雑所得として扱われます。いずれの所得区分も一定の非課税範囲が設けられている所得のため、受取時の課税を緩和することができます。

死亡した場合に死亡退職金扱いで払出ができ、相続税上非課税枠(500万円×法定相続人の数)が設けられている点は小規模共済と同様です。

・税制上のメリット
小規模共済と同じ扱いです。
年間掛金全額が「小規模企業共済等掛金控除」として所得税等の計算上、所得控除の対象となります。小規模共済とiDeCo両方に加入している場合には、両方の掛金合計額が、所得控除の対象となります。

・注意点
最終的な運用益は、加入者自身の投資成績次第です。
iDeCo加入や口座管理のため、運営管理機関等へ都度管理手数料(数百円~数千円)を支払う必要があります。運用益がこの管理手数料の総額を超えない場合、払出額が元本割れする可能性があります。

また、長期の資産形成を目的とする公的制度という前提から、60歳になるまで原則として解約することができません。手元資金が不足する場合も、掛金を大幅減額する・払込を一時停止するという対処はできますが、過去に払込んだ掛金を払出すことはできません。なお、転職・起業などで対象となる公的年金制度が変更になった場合には、iDeCoの加入者区分を切り替えながら60歳まで払込・運用を続ける設計となっています。

国民年金基金
・制度の概要
国民年金の加入者(20歳以上60歳未満)が申込できる年金の上乗せ制度です。厚生年金・共済年金加入者およびいわゆる第3号被保険者は対象外となります。
制度上原則として払込終了が60歳、年金受給開始が65歳~となっており、払込終了から受給開始まで、必ず5年間の空白期間がある点には注意が必要です。

国民年金基金はiDeCoと同じく国民年金基金連合会が運営母体となっている国の制度なのですが、最近とみに存在感が薄いです。
国民年金基金とiDeCoは制度設計上、掛金上限額(6.8万円/月)を分け合う構造となっており、金融投資に注目が集まる昨今、脚光を浴びるiDeCoの割をくっている制度です。

iDeCoと異なる点は、国民年金加入者のみが対象であること、運用は国民年金基金連合会が担っており、加入者は指定された掛金を支払えば、決まった年金額を受取ることができる制度(確定給付)であること、また年金が原則として終身年金であること(iDeCoの分割受取は有期年金)等です。

・必要資金と効果
国民年金基金の特徴は、受取額が固定されていること。
出口が決まっているので、入口の掛金を調整することによって収支を合わせています。

そのため払込掛金の額は、希望の受取額と加入年齢により変動します。加入者は自分の場合の1口あたり掛金額を確認し、状況に応じて加入口数の調整をしながら掛金を払込む仕組みになっています。
現在の掛金設定は国民年金基金のサイトで確認できます→国民年金基金 掛金月額表

たとえば、40歳で・掛金2.97万円/月(A型1口目+A型2口目以降×3口)を60歳まで20年間払込み、65歳から受取開始した場合。寿命により受給できる年数は異なりますが、例えば85歳まで20年受給したと仮定します。
この場合に予定されている終身年金は年額42万円、20年で総額840万円(2024/4時点)。

積み立てた掛金の額の総額が2.97万円×12×20年=712万円なので、約118%の返戻率となります。この想定であれば、先述の小規模共済(114%)より返戻率が良く見えます。ただ終身年金の特性上、寿命次第でこの返戻率は変動します。80歳終了なら88%で元本割れ、一方90歳終了なら147%、かなり割がよくなります。

受け取る年金額は所得税の計算上、公的年金等に係る雑所得として扱われます。一定の非課税範囲が設けられている所得のため、受取時の課税を緩和することができます。

受取開始前に死亡した場合、または保証期間ありの型を選択した場合で保証期間中に死亡した場合、遺族に一時金の支給があります。国民年金基金の遺族一時金は小規模共済・iDeCoとは異なり、相続税が非課税とされています(小規模共済・iDeCoの遺族への払出は一定の非課税枠を超えると課税)。

・税制上のメリット
国民年金基金の掛金は「社会保険料控除」として、所得税の計算上その全額が所得控除の対象となります。
なお小規模共済やiDeCoにも加入している場合には、それぞれの掛金総額が、「小規模企業共済等掛金控除」+「社会保険料控除」として所得控除の対象となります。

・注意点
iDeCoとの併用は可能ですが、両制度合計で掛金上限額が6.8万円/月までとなっています。
(2026/12以降は合計7.5万円/月までに引上げの予定)

また、国民年金基金に加入すると、次でご紹介する付加年金に加入できません。(iDeCoと付加年金は併用OK)

iDeCoと同じく、長期の資産形成が目的なので受給開始年齢になるまで払戻しはできません。手元資金が不足する場合には口数の削減や、払込の一時中断で今後の支払の調整は可能ですが、すでに払込んだ掛金を返してもらうことはできません。また払込を減額・停止した場合には、その分年金給付額が減額されます。

付加年金
・制度の概要
国民年金の加入者(20歳以上60歳未満)が申込できる、もうひとつの年金上乗せ制度です。

この制度は掛金・効果ともに地味なのであまり話題になりませんが、話のついでに触れておきます。

・必要資金と効果
国民年金の保険料に加えて400円/月を納めておくと、年金受給の際に200円×払込総月数に相当する額が年間支給額に上乗せされます。

たとえば40~60歳までの20年間、この掛金を納めた場合、65歳からの年金額が200円×12×20=4.8万円上乗せになります。これも終身年金なので寿命により返戻率が変動しますが、まず20年間で払込んだ掛金総額は400円×12×20=9.6万円。85歳まで生きたとして、受取額の増加分は4.8万/年×20年=96万円。返戻率は脅威の1,000%(10倍)です。80歳終了なら750%(7.5倍)、90歳終了なら1,250%(12.5倍)、金額としては小さいですが、率だけ見ると最強です。

・税制上のメリット
国民年金保険料と合算して請求される付加保険料は、その全額が「社会保険料控除」として所得税の計算上所得控除の対象となります。

・注意点
国民年金基金に加入している場合には、付加年金に加入できません。

iDeCoとの併用は可能ですが、付加保険料に加入するとiDeCoの掛金上限額が▲1千円/月されます。
(現状でiDeCo上限が6.7万円になる。2026/12改正以降はiDeCo上限が7.4万円/月になる)

この話を、タブーにしないでください

「僕の身になにかあったら?ハッハッハ、だいじょうぶ!僕死なないので!!」
たまに、こういう方もいます。…まあいいんですよ?その若さと生命力がうらやましいです。

開業以来ひたすら前へ前へ進んできたのに、もしものことがあったら、という考えが頭をかすめると、冒頭で触れたとおり「なにをこんな後ろ向きな…」と感じてしまう方もいらっしゃるようです。
でも私は、これを考えるのはとても自然で、健全で、誠実なことだと思います。

考えないようにすればするほど、どんどん悩みは大きくなります。気が重くてもめんどくさくても、向き合ってひとつひとつ対処していけば、最悪の事態が起こった場合、少しでも立ち向かう力になります。

将来が予測できない中で事業をしているのはみんな同じですが、その不安への対処法は人それぞれです。正面から向き合わず受け流す選択肢も否定はしませんが、的確な不安を感じたうえで、それに対処していく姿勢の経営者の方が、個人的には好きです。

事業を「守る」ことに割く資力や導き出す結論は人それぞれではありますが、ご一緒に考える中で、ご自分なりの安心を見つけていただければと思います。

おわりに

とはいえ、何事もなく穏やかに事業を完結できるのがいちばん。

くれぐれも、お身体と心を労りつつ、末永くよい仕事を続けていただければと願っています。

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