人格なき社団の口座を作ろう!

これ、実はずっとやってみたかったんですよね!

もくじ

色んなことが気になっちゃう性格なんです

子どもの頃から好奇心が強い性格で「なんで?」「それって、どういうこと?」「どうやってやるの?」と問い詰めては、よく親を困らせていました。大人になっても、いつも何かしら調べて回っている気がします。

そんな性格と今の仕事、相性は決して悪くはないのですが、たまに自分でも「で、この経験はいったい今後どんな場面で使えるというのだ…」というツッコミが入るようなマイナーな知見を得ることもあります。

というわけで今回はたぶん、そんなお話。
万が一、どなたかの役に立つことがあればうれしいです。

ちょっとしたきっかけがあって

先日、参加しているとある集まりでこんな話題がありました。
「みんなから参加費を現金で集めているけど、残高の管理が大変。集金のための口座を開設できないかな?」

この集まり、メインとなるメンバーはいますが、原則として有志のグループであり参加者も変動します。
そんな場合でも預金口座って作れるのかな?作るとしたらどんなことが問題になるのかな?
その情報集めをしたので、そのレポートです。

なんか、かっこよくないですか?

税法では「人格なき社団」、民法では「権利能力なき社団」。表現は異なりますが、ほぼ同じものを指します。
なお税法の条文上は「人格なき社団」ではなく「人格のない社団」というのが正式名称です。

でも「人格なき社団」の方が断然!カッコいいので、この稿はそちらで呼びます。
「国境なき医師団」とか「蒼き狼」とか、なんとなく言いたくなりませんか?( ← 中二病)

「人格なき社団」?

「人格なき社団」とはなにか?
すごく簡単に言えば、「法人ではない人の集団で、特定の目的のために結成されたもの」です。
…そんな抽象的な言い方されても、どういうこと?となりますよね。

ただ実はこれ、きっと皆様の身近なところにあります。
たとえば、町内会。PTA。マンション管理組合。従業員互助会。サークル。同窓会。学会。etc
今までこういった団体に一切関わってこなかった、という人の方が珍しいのではないでしょうか?

そもそも「法人」とは法律上、「人格」として扱う組織を言います。
株式会社・合同会社・一般社団法人・NPO法人・公益法人・学校法人・宗教法人などさまざまな種類の法人がありますが、いずれも基本的には「法人」としての登記がされています

一方「人格なき社団」には登記がなく、また法律上正式な人格も与えられていません。
でもこのような団体は確かに、存在するのです。ではこの「人格なき社団」をどう取り扱うか。

「人格なき社団」の要件は

先ほど、「人格なき社団」は「法人ではない人の集団で、特定の目的のために結成されたもの」といいました。
つまり、単なる「人の集団」ではありません。

では、「特定の目的のために結成された」集団であるとは具体的にどういうことか?

法人税法では、このように記載しています。

法人税基本通達 1-1-1 法人でない社団
「~多数の者が一定の目的を達成するために結合した団体のうち法人格を有しないもので、単なる個人の集合体でなく、団体としての組織を有して統一された意志の下にその構成員の個性を超越して活動を行うものをいい、次に掲げるようなものは、これに含まれない。
・民法第667条《組合契約》の規定による組合
・商法第535条《匿名組合契約》の規定による匿名組合」

→ 法人ではない人の集団のうち、組合ではなく、団体として統一された意思をもって活動するもの。
…まだちょっとわかりにくいし、抽象的です。
具体的な判定には、下記の最高裁判例の判断基準を参考とする場合が多いです。

昭和39年10月15日最高裁判例
「・共同の目的のために結集した人的結合体であって
・団体としての組織を備え
・そこには多数決の原理が行われ
構成員の変更にもかかわらず、団体そのものが存続
・その組織によって、代表の方法、組合の運営、財産の管理その他団体として主要な点が確定しているもの

「人格なき社団」と認められるためには、上記の要件を満たしていることを外部に明確に示す必要があります。そのため、「人格なき社団」には、「規約」が定められ、その内容に従って「議事録」「収支報告書」などが備えつけられています。

身近な「人格なき社団」を思い浮かべてみて、いかがでしょうか?

「人格なき社団」未満の集団もあります

中には、こういった要件を満たせない団体もあります。
全体の意思が統一されておらず、責任の所在や運営方針も明確でない。このような団体はいわば「烏合の衆」、ただの人の集まりにすぎません。「組織」として自立していないということです。

こういった場合、法律上の「人格なき社団」とは扱われません。
「烏合の衆」はさすがにカッコ悪いので、以下仮に「『人格なき社団』未満の団体」と呼ぶことにします。

1.法人税(国)

法人税法上、「人格なき社団」としての要件を満たす組織については、法人とみなして各種規定が適用されます(法人税法第3条)。但し次の条文により、実際に課税対象とされるものは限定的です。

法人税法第4条 納税義務者
「内国法人は、この法律により、法人税を納める義務がある。ただし、公益法人等又は人格のない社団等については、収益事業を行う場合~に限る。」

ここでいう「収益事業」は、法人税法施行令第5条に定められた34の業種(特掲34業種)
物品販売業、不動産販売業、金銭貸付業、物品貸付業、不動産貸付業、製造業、etc…まだまだありますが、要するに一般的な営利法人と競合するような事業を行う場合だけ課税するよ、ということです。

このあたり、公益法人等(NPO法人、学校法人、宗教法人など)とも共通する取扱いですが、ともかくこの34の業種を行わない場合には法人税納税義務なし、ということになります。

たとえば会員から集めた会費を運営費に充てるだけであれば、納税義務はありません。

2.地方税(都道府県・市町村)

基本的に、法人税法に準じて「収益事業を行う場合のみ課税」です。

ただ地方税法、法人税法と違って条文上で明確にこれを記載していないです。私、読み取れなすぎて市役所の税務課に問い合わせてしまいました。

どうやら、地方税法の各税目にある「納税義務者」の規定の下記文言から、「収益事業を行うものはこの規定により課税→行わないなら対象外 → 納税義務なし」と読み取るということみたいですね。
…ニホンゴ、ムツカシイ。

地方税法第24条第6項(道府県民税の納税義務者等)
地方税法第72条の2第4項(事業税の納税義務者等)
地方税法第294条第8項(市町村民税の納税義務者等)

「法人でない社団~で代表者又は管理人の定めがあり、かつ、収益事業を行うもの~は、法人とみなして、この節~の規定を適用する。」

3.消費税

消費税には法人税と異なり、「収益事業」の考え方はありません。

そのため「人格なき社団」が消費税の納税義務者となる場合、個別の取引について一般の法人と同じく課税・非課税の判定が必要になります。

但し「人格なき社団」に年1,000万円を超える課税売上がある( ≒強制的に消費税の納税義務者となる)ような場合はまれだと思うので、この項での記載はここまでに留めます。

4.源泉所得税

所得税法上、「人格なき社団」が給与や報酬を支払う際には源泉徴収義務者となりますので、所得税の源泉徴収をおこなう義務があります。(所得税法第6条)。

5.じゃあ「人格なき社団」未満の団体だったら?

これ、私は明確な取扱いに行き着けていません。

税法上は「利益が出るような事業を複数人で行うならば、ふつうはきちんと「人格なき社団」としての要件を整えるでしょう?」と考えられているみたいですね。

法人税基本通達1-1-3
「法人でない社団~について代表者又は管理人の定めがあるとは、当該社団~の規約等によって代表者又は管理人が定められている場合のほか、当該社団~を主宰する者が事実上あることをいうものとする。したがって、法人でない社団~で収益事業を行うものには、代表者又は管理人の定めのないものは通常あり得ないことに留意する。

一方で利益が残らない事業ならば課税の問題は生じないはず。だからあえて触れてない。だと思います。

では万が一、組織化されていない団体が行った行為の結果、利益が残った場合にはどうなるのか?
この場合、その利益はこの団体を構成するいずれかの個人に属する所得として申告する、と考えるのが自然かなと思います。

なお「人格なき社団」未満の団体は税法上の「人格なき社団」としての要件を満たさないわけですから、「収益事業を行う場合のみ納税義務あり」という特別扱いはなし、利益は所得税等の課税対象となると考えています。

わりと、見たことあるんです

団体名義の口座というもの、意外とよく見かけます。

町内会やマンション管理組合はもちろん、サークル会費を集める口座、従業員互助会のレクリエーション費を積立てる口座、無尽(むじん)の開催費を集める口座、など。

法人であれば登記簿を持参して口座を開設しますが、登記がないのにどうやって口座を開設するの?
私としては、つねづねこれを疑問に思っていました。

口座をもっている方に、「ねえねえそれってどうやって作ったの?」と聞いてみても、「え?ずっと前から引継いできてるから…」という返事しかもらえず、いつか実地でやってみたいと思っていたんです。

チャンス、到来!

というわけで今回、代表者の承諾をもらい、大義名分を手に入れた私は小躍りしました。

早速、知り合いの金融機関担当者に片っ端から電話をかけてアポイントを確保。
あの憧れのふしぎな口座、自分で作れる日がついに来た!

前提として、今回口座を開設したい団体は、まだ発足間がなく、規約などは整備していません。代表者はいますが、組織というほどの規模で運営していません。現状「人格のない社団」未満、と考えてよい状況です。

ただ、今後参加者が増加してくることも十分考えられますし、この際きちんと「人格のない社団」の要件を満たすよう形を整えておくのもありかもしれないと考えました。

どこの金融機関にしよう?

1.ネット銀行で
PTAやサークルの口座を持っている方に聞くと、圧倒的な人気を誇るのはゆうちょ銀行。
・ゆうちょ銀行 →団体(人格なき社団)名義の口座を開設されるお客さまへ

他にも開設可能と記載があったのは、GMOあおぞらネット銀行。
・GMOあおぞらネット銀行 →法人登記をしていない団体で口座開設することはできますか

一方で、明確に「人格なき社団名義の新規口座開設はお断り」と書いてある銀行もあります。
例えば
・楽天銀行 →団体名や、屋号のついた口座は開設できますか?
・住信SBIネット銀行 →任意団体の口座を開設することはできますか?
・paypay銀行任意団体・外国法人の口座開設はできますか。

2.都市銀行で
いわゆる都市銀行、みずほ・三菱UFJ・三井住友・りそなは、口座開設の案内ページには明確な記載がないですが、「ネットでは開設できないので来店するように」という指示があるところが多いですね。
場合による、ということでしょうか。

3.地元の金融機関で
地元の第一地銀と、信金にも聞いてみることにしました。
こちらも2.と同じく「相談には応じるけれど、開設できるかは場合による」という対応のようです。

結局わたしが話をもちかけてみたのは、ゆうちょ銀行地元の第一地銀地元信金の3つ。
各窓口の対応の温度感がけっこう違っていて、面白かったです。

なんで都市銀行には行かなかったのかって?
山梨県では都市銀行がほぼ機能していないからです。(三菱UFJは店舗なし。他も甲府駅前店のみ。)

・ゆうちょ銀行 (温度感 ↑ )
_「人格なき社団」の要件を満たす場合に限り、口座は作れます。
_規約と議事録の提出は必須。
_申込から審査終了まで、2ヶ月程度かかります(春は特に混みあいます)。
_口座名義は団体名のみで登録できます。
_代表者名は、口座名義には載せなくてもいいですが、必ず届出が必要です。
_代表者変更の場合、登録変更手続が必要です。
_口座の取扱いは法人に準じます。
_ネットバンキング(ゆうちょダイレクト)は無料で使用可能。
_ネットバンキングの取引に、個人と異なり認証用トークンが必要です。
_通帳・キャッシュカードの発行が可能です。

地元地銀 (温度感 ↓↓ )
_「人格なき社団」の要件を満たす場合に限り、口座は作れます。
_規約の提出は必須。
_たとえ要件を満たしていても、目的や実体はかなり厳しく審査します。
_町内会やPTAなら通りやすいですが、有志の親睦団体での開設はかなり難しい現状です。
_2026/4以降、内規上審査がさらに厳格化しました。
_申込から審査終了まで、2週間程度かかります。
_口座名義は団体名のみ or 団体名+代表者名など、希望に応じます。
_代表者名は、口座名義には載せなくてもいいですが、必ず届出が必要です。
_代表者変更の場合、登録変更手続が必要です。
_開設は代表者の本拠地の支店ですが、代表者変更する場合は支店も移転となります。
_口座の取扱いは法人に準じます。ネットバンキングは有料ですが、利用可能です。
_「人格なき社団」未満の場合、個人名義での別口座作成には積極的には対応しません。
_個人名義での別口座作成の際、屋号付き口座は作成できません。

地元信金 (温度感↑ ↑ )

_「人格なき社団」の要件を満たす場合、口座は作れます。
_「人格なき社団」の場合、規約の提出は必須。
_「人格なき社団」未満の場合も、任意団体として口座開設が可能な場合があります。
_「人格なき社団」未満の場合、信金と代表者との取引実績などを考慮して審査します。
_「人格なき社団」未満の場合、団体の活動目的を明確にし、主要な構成員の名簿を提出してください。
_口座名義は団体名+代表者名で固定です。
_代表者変更の場合、登録変更手続が必要です。
_開設は代表者の本拠地の支店、代表者変更の際も原則支店変更は不要です。
_ネットバンキングの取扱いはありません。
_キャッシュカードの発行もなく、通帳発行のみの口座です。
_従って、取引の際には、必ず代表者の方が窓口に来る必要があります。

2つの候補に絞り込まれました

地元地銀は、警戒感MAXという対応でした。なのでこれは候補外。
まあ地域を背負って立つ金融機関として、儲かりそうもない話でリスク取りたくないよね。

ゆうちょ銀行は、口座名義を団体名のみにできる、またネットバンキング無料という点が大きな魅力です。
ただ郵送での審査のために必要書類が多く、また審査期間も長いのがネック。
そして長い審査の結果、組織的に基準に達していないと判断されるのも、少し心配です。

地元信金は、「人格なき社団」まで至らない段階でも開設に応じてくれる点がとてもありがたい。
ただその反面、取引を窓口でのアナログな対面コミュニケーションに限定しているので、この点利便性は劣ります。でも組織として未完成なのは事実だから、お金を扱う以上、これは仕方ないでしょう。

結局、まずは信金で

メンバーで話し合った結果、この団体がどの程度の規模になるか、まだ未知数であることもあり、まずは現状の「人格なき社団」未満の団体として、地元信金で口座開設をしてみようということになりました。

警戒感MAXだった地銀担当者からは、「以前はもう少し緩やかだったのですが、本部としてはともかくマネーロンダリングに利用されることへの神経を尖らせています。実際に悪用されている事例が非常に多いということです。」と説明の補足がありました。

金融犯罪が拡大の一途を辿る現状を見れば、審査が緩やかになる未来は当面来ないように思います。口座開設はどこかの時点でしたかったので、できるだけ早い時期に開設手続を取っておくのが得策と判断しました。

脱線その1:「無尽」というもの

「人格なき社団」、調べれば調べるほど奥深いです。

文中にちらっと出てきた「無尽」の制度は、そもそもは地域の小規模金融を担う互助組織。

かつては日本全国に「無尽」が存在しましたが、このうち商業的な性質をもつものは第二次大戦後、政府によって統合・法人化され、相互銀行を経て現在の第二地銀や信用金庫・信用組合の前身となっているとのこと。

主に旧国立銀行をルーツとする第一地銀(こっちは一般社団法人全国地方銀行協会)とは、そもそもの成り立ちが違うということで、「第二地銀」なんですね。

なお、現在山梨で行われる「無尽」と呼ばれる文化は、地域金融の機能は失っており、単なる近所の親睦会といった性質のようです。昔の「無尽」であれば「人格なき社団」の要件を満たすこともできそうだけど、今の「無尽」は「人格なき社団」未満の団体のようにも思います。

それとも現在の「無尽」にも、ちゃんと規約や議事録ってあるのかな?
この記事を読んでくださっている方の中に、「無尽」名義の口座をお持ちの方がいらっしゃれば、ぜひそのあたりお伺いしたいです!

脱線その1:ヤクザって「人格なき社団」なの?
「人格なき社団」絡みの話題で面白かったのは、10年ほど前に九州の指定暴力団「工藤会」が、いわゆる「上納金」を「人格なき社団の会費収入であるから非課税」と主張して、福岡国税局とやりあった脱税事件。

なるほど!暴力団も「法人ではない人の集団で、特定の目的のために結成されたもの」といえる、のか?
暴力団結成の「特定の目的」って何だろう?…いやこの話題あまり深入りしない方がよさそうだ…。

この事件の顛末としては、上納金の大部分は会幹部の親族名義の口座に回収され、そこから引出された金銭が個人的に費消されていたのだから、その額については団体としての収入ではなく幹部個人の収入として所得税の課税対象となる、という結論がつけられたようですね。
対象の上納金の額はおよそ8億円。脱税額は3億円。

しかし暴力団、銀行の窓口で堂々と団体名義の口座開設はできないんだから、公私の別を証明するのは難しそう。この時は福岡国税局と福岡県警が一致団結して資金の流れを徹底的に洗い上げたみたいです。

「人格のない社団」の話題全般に感じることですが、法律って生の現実をすべてさばくには言葉足らずの部分も多いです。
ひとつひとつの事実をどう当てはめていくのか?我々の仕事についても終わりがない部分だと思います。

おわりに

さてさて話を元に戻して、私の作りたかった団体の口座。
審査に1週間ほどかかりましたが、先日無事に作成が完了しました!
貴重な口座、大事に使って、それから、参加者も徐々に増やしていきたいです!!

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