扶養範囲内とは?~健保・年金を中心に~

「この収入を申告したら、私は家族の扶養をはずれてしまいますか?」
相談会でこのご質問、とても多いです。

「扶養」って、たくさんあって
「扶養をはずれてしまいますか?」
初対面の方からのこの質問に一言で答えることができる税理士は、いません!!(断言)

まず、質問している方がどの制度(所得税・住民税・健康保険・年金・会社の福利厚生制度)上の「扶養」を念頭においているのか?によって答えが変わります。また、制度によっては、その方のご家庭の状況を把握した上でなければ答えが出ない質問でもあります。

ただ一点、確かなのは、税理士が「扶養」について答えられるのは「税」2つ(所得税・住民税)だけです。それ以外は、税理士は専門外となりますので、扶養する方の勤務先に応じて、下記のような先へ問い合わせていただくのが確実です。
・健康保険・年金制度:健保組合・共済組合・協会けんぽ(※)など
・会社の福利厚生制度(扶養手当など):会社の総務部門


…さて、という大前提を振っておいて、なんですが。。
最近、正直いって専門外である健康保険・年金の扶養にまつわる話題について、いろいろ見聞が広がる機会があったので、私の備忘がてら、書き残しておこうと思います。

とはいえこれは個人的な見聞の範囲ですので、ご自身の状況に応じた詳しい情報は、上記のとおり各問合せ先にご自分で確認してくださいね!

※協会けんぽとは
全国健康保険協会(H20~。以前は、「政府管掌健康保険」)。自前の健康保険組合がない中小企業等で働く従業員の加入する健保です。

「扶養」とは
「扶養」 = 「誰かを養うこと」、日本語としては、ただそれだけの意味です。
しかしこの単語が、様々な制度で「特定の定義にあてはまる親族」を表わすために採用されたために、「扶養」という言葉には色々な意味が付与されてしまいました。

「扶養」の定義にあてはまった場合、
①所得税では、扶養している人が所得を一定額(38万円etc.)下げてもらえます。
②住民税でも、扶養している人が所得を一定額(33万円etc.)下げてもらえます。
③健康保険では、扶養されている人が自分で保険に加入しなくてよいです。
④年金では、扶養されている人が自分で年金の掛金を払わなくてよいです。
⑤会社の福利厚生制度では、扶養している人が一定額の手当を受け取れます。

各制度、根拠としている法律やルールが違いますから、①~⑤の制度の対象となる「扶養されている」という認定の要件も、それぞれ異なります。
おおよそですが、
①②は、年末時点で確認した、その年1~12月の合計所得58万円以下( = 過去の話)、
③④は、被扶養者認定日以降の、年間見込収入130万円未満( = 将来の話)、
⑤は、各会社の給与規定上の定義によります。
(判定の金額は、2025年時点の各制度上)

あわせて注意点として、
③は、健保組合・共済組合・協会けんぽの制度です。(国民健康保険・国保組合は対象外)
④は、扶養している人の配偶者のみに適用される制度(第3号被保険者)です。
⑤は、扶養手当の制度がある会社に限ります。(最近は、無い会社が多いです)

というわけで、最初に書いたご質問に対する私たちのお返事は、「今、気になっているのはどの「扶養」のお話でしょうか?」という質問になるのです。

「扶養」の効果は?
述べてきたように、「扶養」に関するご質問の意図は、「私は養われているのか?」という事実の確認ではなく、「私は各制度で定義されている要件に当てはまり、そのメリットを受けることができるか?」ということだと思います。

では、そのメリットってどのくらいなのでしょうか?
具体的な数字を出した方がわかりやすいので、例えば、こんなご家庭を想定します。

夫:公務員・年間給与額600万円(所得税率10%)
妻:アルバイト・年間給与額120万円(合計所得55万円)
子:高校生・収入はなし


この場合、妻の合計所得は55万円、子の所得は0円なので、おそらく税金・社会保険とも扶養の範囲内と想定されます。その場合の効果はこんな感じです。
①夫:所得税の控除→38万×2×所得税率10% = 7.6万円
②夫:住民税の控除→33万×2×所得税率10% = 6.6万円
③妻と子:健康保険料不要→妻と子が甲府市国保(2025)保険料を負担すると = 12万円
④妻:年金掛金不要→1.75万円(2025)×12ヶ月 = 21万円
⑤は、そもそも制度がないものとして省略

①②税金の制度によるメリット(減税額)は14.2万円です。
一方、③④社会保険の制度によるメリット(社保の負担軽減)は33万円です。


「扶養」から外れるインパクトが大きいのは、どちらかといえば③④の健康保険・年金(以下「社保」)の方であることにお気づきでしょうか?
「扶養をはずれたら」というご質問、お話を伺っていくと、論点は税金の問題よりも社保の問題である場合が多いと感じています。
今のご自身の状況に照らした場合、いかがでしょうか?

社保の扶養判定 「年収130万円未満」 とは?
「見込」なのに、どうやって確認するのか?
これ、私には謎です。
なんで所得税や住民税と合わせないんでしょう?
なんで誰もわからない将来の話をするんでしょう?

税金の世界から見ると社保ってなんだかふしぎです。
(税金は財務省、社保は厚生労働省が管轄なので、いろいろ考え方が違います)
強いて言えば、ドライな税金と異なり社保は福祉的な観点が加わるのかなあというイメージで納得することにしています。

でも、「これから1年間の稼ぎなんて、こっちが知りたいよ!」と思いませんか?
要するに無茶ぶりです。認定を受ける側がわからないんですから、当然認定する側の健保組合等だってわかりません。

というわけで、実際に扶養の判定を受ける際には、過去の収入を証明する書類(確定申告書や市役所で取得する所得証明)や、その後退職や休職など大きな状況の変化などがあればその旨を証明する書類を添えて提出し判定を受けることになります。
具体的な判定資料は所属する健保組合等により異なりますので、各窓口にお問合せのうえ、ご自身の状況を伝えて指示に従っていただければと思います。

130万判定の根拠は
この件、健康保険法の条文では金額までは明記しておらず、「130万円」の根拠は、昭和52年(50年前!)に厚生労働省から各県知事宛に発行された通知書(保発第九号・庁保発第九号)によります。また、コロナ下の令和2年に発行された通知書において、将来の見込額を判定の対象とすること、一時的な収入増減は考慮せず総合的に判定すること、が記載されています。


 被保険者~の直系尊属、配偶者~子、孫及び兄弟姉妹であって、主としてその被保険者により生計を維持するもの

厚生省保険局長・社会保険庁医療保険部長通知 保発第九号・庁保発第九号
~「主としてその被保険者により生計を維持するもの」に該当するか否かの判定は、専らその者の収入及び被保険者との関連における生活の実態を勘案して、保険者が行う取扱いとしてきたところであるが、保険者により、場合によっては、その判定に差異が見受けられるという問題も生じているので、今後、左記要領を参考として被扶養者の認定を行われたい。~
(1) 認定対象者の年間収入が130万円未満~であって、かつ、被保険者の年間収入の1/2未満である場合は、原則として被扶養者に該当するものとすること。


厚生労働省保険局保険課通知 令和2年4月10日事務連絡
~被扶養者の収入については、被扶養者の過去の収入、現時点の収入又は将来の収入の見込みなどから、今後1年間の収入を見込むものとすること。この際には、勤務先から発行された給与明細書、市区町村から発行された課税証明書等の公的証明書等を用いること。

今後1年間の収入を見込む際には、例えば、認定時(前回の確認時)には想定していなかった事情により、一時的に収入が増加し~場合であっても、直ちに被扶養者認定を取消すのではなく、過去の課税証明書、給与明細書、雇用契約書等と照らして、総合的に将来収入の見込みを判断すること。

「年収」 ?

「年収130万円」って、つまり?
税金の扶養では「所得」で要件を決めています。この「所得」については、所得税法上、収入の種類に応じて計算方法が細かく決まっているため、必要な情報が揃っていれば、私たち税理士は算定することができます。

一方、社会保険の判定に使う金額は「年収」「収入」という言い方をしています。
「年収」「収入」というのは、一般的な用語で、所得税法上の「所得」のように明確な定義がありません。そのため、税理士の知識ではこれを算定することができません。

「年収」「収入」が130万円未満である見込か、ということは、前段で挙げた令和2年4月10日事務連絡の表記を見ていただいて分かるとおり、究極的には各健保組合等が「総合的に判断」しています。そのため、税金の扶養には入れても社保の扶養は外れる、ということは、しばしばあります。

非課税収入と、自営業は要注意です!
たとえば、所得税では非課税とされる失業手当、傷病手当金、出産手当金などは、社保の場合「収入」として集計されます。所得税で非課税または一定額の控除が認められる公的年金(老齢・障害・遺族)についても、社保では全額「年収」扱いです。(但し公的年金収入に関しては、扶養の判定要件の年収が130万円ではなく180万円に引上げられます)

また、事業や不動産所得など自営業の場合の「年収」についても独特の計算をします。
所得税では所得 = 収入▲原価▲経費▲青色申告特別控除という算式で「所得」を計算しますが、社保の判定ではほとんどの経費が認められません。また、青色申告特別控除の減算も認められません。
自営業の方の計算については、各健保組合等の規定次第なので、具体的な計算は必ず窓口にお問合せいただくことをお勧めいたします。

なお、参考までですが、自営業の「年収」判定について協会けんぽのパンフレットにはこのような記載がされています。
自営業者の場合:年間総収入から直接的経費を差し引いた額とします
直接的経費とは、その経費がなければ事業が成り立たない経費(例:製造業における原材料費、小売業における仕入れ費)であり、それ以外の費用(例:公租公課、宣伝費)は差し引くことができません。


基本的には粗利(収入▲原価)で、130万円の判定をされると考えればよいかと思います。
これについては、私も自営業なので「いやいや、ちょっといっぺん自分で事業やってみろよ!家賃とか税金くらいさあ!」と言いたいのですが、自営業の必要経費って幅がありますから、きっと過去に色々、あったんでしょうね、、。まあ、後段で述べるとおり、給与収入でも、給与所得控除(給与所得者の必要経費という言い方をされることが多いです)が考慮されないので、その扱いと公平といえば公平なのかもしれません。

最後、給与・年金に関しては、基本的には額面額を「年収」と考えればよいです。それでも給与の場合には残業代や賞与など変動要素が多く、予測が難しい場合があるので、2026/4からは、年収見込額は労働契約などで明確にされている給与だけで計算していいよ、という改正がされる予定です。

ともかく一回扶養に入れたら、バレないんじゃ?

結論→バレます。

まず、税金の扶養がバレる話
税金の扶養は、毎年の年末調整で家族の所得を確認されるので、毎年見直しがあります。もし、ここで家族の所得を実際より低く書いて所得税・住民税の控除を受けた場合、他の方面からの情報によってご家族の正しい所得金額が判明し、税務署から申告の仕直しを求められる場合があります。これは、税理士をやっていると、けっこう頻繁に見ます。

例えば、ご家族が給与をもらっている場合、その勤め先から税務署・市町村に収入の報告が入ります。また、事業所得や不動産所得の場合も、ご本人の確定申告と扶養の申告内容が合わなければバレます。また職業によっては(不動産収入や源泉徴収が必要な業種など)顧客から税務署に支払内容を報告しているため、その情報からもバレる場合があります。土地や株式の売却、保険金受取なども各機関から税務署に報告が入るのでバレます。
要するに、バレます。

ではバレたらどうなるのかというと、すごくめんどくさいことになります。
給与所得者の所得税は、会社が源泉徴収して、会社から税務署に払うことになっているので、この場合めんどくさい思いをするのは主に会社の総務担当者です。
会社は、税務署から扶養の修正について連絡があったら、年末調整をやり直し → 直近の給与から追加の源泉徴収をし → 税務署に報告・納付し → この影響で住民税も変更になるため → 市町村から修正額の通知をうけてその徴収と納付も行う必要があります。

一方、事業所得・不動産所得等の場合には、確定申告のやり直しと税金の追納が必要になります。この場合も、後追いで住民税の修正・追納、さらに国民健康保険・後期高齢者医療保険の追納が付いてきます。

次に、社会保険の扶養がバレる話
社会保険の方が、わりと緩やかです。なんといっても、「見込」ですから。
とはいえ、家族の状況は変化するので、特に変更の申し出がない場合にも、扶養に入れている人の状況に変化はないか、時々チェックがかかります。「検認」といいます。

検認の際には、最初の扶養認定の際と同じく、確定申告書や市役所で取得する所得証明などを提出し、扶養の要件を満たしているかの判定を受けます。
ここで要件を満たさなかった場合、一定の期日で社保の扶養から外れることになります。

この場合には健保から「健康保険・厚生年金保険資格喪失等確認通知書」が交付されるので、これを持って自分自身の社会保険(勤務先または国保)の窓口に行き、自身の健保加入の手続をすることになります。
なお国民年金の第3号被保険者となっていた場合、この手続と同時に年金掛金の支払も開始となります。

この検認、健康保険法上は毎年1回行うこととなっていますが、私の経験上は実務運営としてはもう少し緩く、2~3年ごとが多いのかなと思います。
ただこれも各健保組合等により異なります。どちらかといえば、財政が厳しい健保組合が増えている昨今、扶養の検認は徐々に厳しくなっていくのではと予想しています。

但し、社保については、「一時的・突発的な事情で年収130万円を超えてしまっただけの場合には、総合的に判断します」という取扱いなので、このような事情のある方については各窓口で相談してみていただければと思います。


~保険者は、毎年一定の期日を定め、資格確認書の検認若しくは更新又は被扶養者に係る確認をすることができる。~

厚生労働省保険局保険課通知 令和2年4月10日事務連絡
~被扶養者として認定した者については、認定後、少なくとも年1回は保険者において被扶養者に係る確認を行い、被扶養者の要件を引き続き満たしていることを確認することが望ましい~


社保はふしぎ
「税理士なので社保は専門外なんです」と言ったって、相談にいらっしゃる方は、それが税金の話なのか社保の話なのか、区別はしていない、というのは分かっているんです。
ただ社保の細かい判定要件など、半端な知識でまちがったことはお伝えできない立場上、どうしてもご自身でご確認いただくような助言が多くなってしまう点、ご理解いただければと思います。

とはいえ聞けば聞くほど、似ているようででも違う税金と社保、一緒に考えようとしてしまうと、頭が大混乱になるのは無理のないことと思います。

おわりに
扶養に入れると、ラッキー。それはそうなんです。年間数十万円差が出ますから。

でも、特に国民年金の第3号被保険者制度などについては廃止を検討する議論も多く、いつまでこの制度の仕組みが続くかは未知数です。
いわゆる「節税」についても言えることですが、過度に現状の制度に依存した将来設計をすると、かえって人生が制度に振り回されてしまう結果になります。
その点について正しく認識を持った上で、活用できる制度は活用していただければ、と考えています。

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