土地を800万円以下で売ったときの所得税の特例

甲府周辺でも増えている空地、空家、空店舗。個人の方がこのような物件を売却した場合、所得税の減額特例があります。「低未利用土地等を譲渡した場合の特別控除」の解説です。

どんな特例?
個人の所得税のうち、不動産の譲渡をした場合の譲渡所得の計算に関する特例です。
譲渡所得の計算式 → 譲渡収入(対価)▲取得費▲譲渡費用
この計算結果がプラスであれば、譲渡所得(売却益)が出ているということになり、譲渡所得×税率の所得税が発生します。(所得控除なども考慮されますが、省略)

税率は、譲渡した年1月1日時点での不動産の保有期間により異なりますが、保有期間が5年超(長期)の場合には所得税15%+住民税5%=20%(復興特別所得税は省略)となります。

今回の「低未利用土地を譲渡した場合の特別控除(以下低未利用土地の特別控除)」は、その譲渡した不動産が「低未利用土地」であれば、この税率をかける前の譲渡所得の金額から一律100万円を控除するという制度です。
そのため、この制度の適用による税額軽減額は、100万円×20%=20万円となります。

「低未利用土地」とは
制度の対象となる「低未利用土地」とは、下記のような土地です。
都市計画区域内にある①または②の土地で、
・要件を満たしていることを証明する書類が提出できるもの

譲渡時点の現況として
①居住の用、業務の用その他の用途に供されていない土地

例えば、空き地・空き家や空き店舗の敷地

②その利用程度が周辺地域の同様の土地に比べて著しく劣っている土地等
例えば、駐車場・資材置き場などで使用しているが、有効活用されていないもの
※但し立体駐車場の敷地を除く

(出典:土地基本法第13条第4項・国土交通省通知 国土動整第8号)

その他の要件
土地の状況以外に、下記のような譲渡内容であることが要件です

・土地の売主は個人(不動産業者ではない)であること

・譲渡した年1月1日時点での所有期間が5年を超えること(相続・贈与の場合、前の持ち主の保有期間を含む)

・土地の買主が、売主の親族等(特別な関係の人)ではないこと

・譲渡後に、土地が有効活用されること

・この譲渡に関して他の所得税の特例の適用を受けないこと

今回の土地が、もともと単一の土地を分筆したものである場合、3年以内にその分筆された他の土地についてこの特例の適用を受けていないこと

・譲渡対価が500万円(市街化区域等の場合、800万円)以下であること
※1 土地と建物等の一体の譲渡である場合にはその合計で判定
※2 共有の土地の場合には各所有者の持分で判定
※3 建物等の所有者が異なる場合、土地のみの対価で判定
※4 建物のみの所有者については対象外

「区域」とは?
都市計画区域
これは税金に関する法律ではなく、国土の開発に関する法律「都市計画法」に出てくる用語です。(税法は、これを準用します)都市計画とは、市町村などの枠ではなくひとつながりの地域として、「まち」をどのように開発し、整備するかのルールです。都市計画区域は、そのために定められたエリアのことで、山梨県内には12の都市計画区域が定められています。(甲府・峡東・韮崎・南アルプス・笛吹川・市川三郷・富士川・身延・富士北麓・都留・大月・上野原)
このいずれかの区域内にある土地が、今回の特例の対象となります。

・市街化区域
市街化区域は、都市計画区域の中に設定される区分のひとつです。
都市計画区域の中には、3つの区分が存在します。「市街化区域」「市街化調整区域」「非線引き区域」です。「市街化区域」とは、市街化を優先的に進めるべき区域をいい、一般的には建物が建ち並ぶ「まち」のイメージです。一方「市街化調整区域」は、原則としては建物の建築が難しく、開発に制限のある区域です。「非線引き区域」は、このいずれの指定も受けていない「その他」の地域です。
国としては、積極的に開発をしている市街化区域の中にある土地は、所有者にも有効に活用してほしいために、今回の特例においても、この市街化区域にある土地の譲渡に関して特別に譲渡対価の上限額を緩く設定しています。

・じゃあその区域はどうやって調べるの?
基本的には、土地の所在する自治体が「都市計画図」を公表しているので、それを確認するのが一番手軽です。甲府市であれば、インターネット上で「こうふマップ」というシステムを公開しているので、そこで「都市計画」→「用途地域」を開き、対象の地域の区分を検索することができます。またこの情報では見にくい場合には、市町村の都市計画に関する窓口などでも確認することができます。

但しこの「こうふマップ」、無料で便利ですが、画像が見にくく印刷がきれいに出ません。その場合には、私はゼンリンの「ブルーマップ」を使用しています。A3用紙1枚の地図が1,320円(2025現在)とお安くはありませんが、画像が鮮明で見やすいので、お客様への説明資料などはこちらを取得しています。
ブルーマップデータだと、目的の場所を入力するだけでその場所を中心とした地図が取得でき、地図上に地域区分なども明記されているため、慣れない方にもわかりやすいと思います。但し注意点として、ブルーマップは作成されている地域が限定的である(山梨は甲府北部エリアのみ)ため、対象外の地域であれば各自治体の都市計画図に頼ることになります。

なお甲府周辺の市街地の特徴として、一見してわからない市街化調整区域がかなり多いです。「このあたりは昔から住宅地だし、当然市街化区域だろう」と思う場合にも、必ず公的な情報で確認をされることをお勧めします。

有効活用とは?

・基本的には、買主が建物敷地として利用する場合が対象です
住宅・店舗・事務所・工場などの敷地として利用(見込含)していること

・買主が建物を建てない場合は、一定の用途に限定されます
資材置き場・駐車場(コインパーキング)としての利用は対象外、一方立体駐車場や自店舗隣接の駐車場としての利用は認められます

・買主が土地をそのまま転売する場合には、対象外となります

・買主が宅建業者で、買取再販する場合は対象となります
※買取再販:空き家を買取り、リフォームして販売する場合

具体的な手続
・確定申告をし、必要事項を記載した内訳書の添付をする必要があります

・申告書に、譲渡対価を証明する書類(売買契約書など)の添付が必要です

・市町村から、証明書を取得する必要があります(これが重要!!)
譲渡した土地がこの特例の適用を受けられる要件を満たしていることを証明する、市町村長名義での証明書を取得して申告に添付する必要があります。
この証明書の取得が一番重要なので、次のブロックで注意点についてご説明します。

市町村からの証明書取得にあたっての注意点
譲渡に関わった宅建業者・買主の協力が必要な手続です
譲渡した売主のみでは手続を進められません。仲介を依頼した宅建業者と買主に対して、譲渡の見込段階でこの特例を使いたい旨を伝えておいた方がスムーズです。

申請後、証明書発行手続に1ヶ月程度かかります
申告期限ギリギリでは間に合いません。譲渡後は早めに申請まで行いましょう。

・市町村が情報を確認するために、下記のような書類の提出が必要です
①低未利用土地等確認申請書(様式1-1)
②売買契約書の写し
③更地・空き家等の現況確認書類(売り出し時の広告など)
④譲渡後の利用を確認するための書類(状況に応じて各種様式あり)
⑤土地の登記簿(全部事項証明)
⑥返信用封筒
※具体的な様式に関しては、国土交通省のサイトでご確認ください。
※甲府市(空き家対策課)の場合、求められている書類は以上ですが、自治体によっては、現況写真や境界図、公図などの添付も必要となります。具体的な手続に関しては対象の土地の所在する自治体に問い合わせしてから資料の準備をすることをお勧めします。

その他、制度の利用にあたっての注意点
・2025年12月末までの時限措置です
現状(2025)、延長は予定されていません。

・譲渡所得(売却益)の金額が控除の上限です
売却益の軽減のための措置なので、売却益が100万未満の場合、売却益 = 控除上限額となります。


派手な効果はないですが、見落とし注意です
不動産の譲渡所得に関する特例は、数千万円規模のものが多いため、この低未利用土地の特例は比較的小粒な制度ではあります。しかし売却対価がそれほど多くない譲渡においては、この控除があるかないかで、全体の税額が大きく変わるため、要件が当てはまりそうな不動産を売却する場合には忘れずご検討をいただければと思います。

おわりに
甲府周辺で税務相談をお受けしていると、相続されたご親族の空き家の譲渡等に悩んでいる相続人のお話をよく伺います。自分で購入した不動産ではないために取得費も不明な案件が多く、想定外の譲渡所得が出てしまう場合があります。

相続後の譲渡に関してよく報道などで取り上げられるのは、相続空き家の譲渡所得の特例(3000万円控除)ですが、この制度は相続後3年内の譲渡や一定期間内の耐震工事・解体などが要件となっており、現実的にはなかなかうまく要件にはまらないこともあります。
低未利用土地の特例はこの点、要件が少し緩やかなので、地方都市の築古物件の現状を考えると、より現実的な制度のように思います。現状制度の延長の見込は出ていませんが、多少形を変えても、継続していってくれないかなと思います。

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