従業員への食事支給の非課税

2026/4~、雇用主が従業員に支給する食事に関して税改正がありました。
この機会に、非課税となる食事の範囲を確認しておきます。

もくじ

事業主が負担する従業員の個人的な費用は一般的に、「給与」になります。

仕事をする上では様々な支払をする必要があります。

このうち事業に直結する性質のもの、例えば材料の仕入代金、仕事に使う道具の購入費用やサービス料は、売上から必要経費(法人の場合には損金)として控除した上で利益( = 所得税・法人税の算定対象)を計算することができます。

では、仕事の合間に食べたゴハンは?職場近くに借りている家の家賃は?仕事中も着る服の購入費用は?
こういったものは必要経費(損金)になるのでしょうか?

上に述べたようなものは、原則としてその性質上、必要経費(損金)になりません。
事業をするために必要というよりは、一般的な生活費としての性格が強いからです。
(一部、事業関連性が明確なものは必要経費となる場合もありますが、原則は生活費です)

しかし、事業主が従業員等のためにこういった生活費を負担した場合、「給与」の一環と考えることはできます。労働の対価である「給与」として従業員等に一定のメリットを与え、それを受けて従業員等が生活することは、金銭で受取った給与を各従業員等が自身の生活費に充てていることと大きな違いはないからです。

給与は(源泉)所得税の対象です

事業のために雇用している従業員等への「給与」は、事業主にとっては必要経費(損金)の一環です。となると、従業員等のために負担した生活費を「給与」というかたちで控除すれば、事業主の利益は下がります。つまり、どのような名目で必要経費にしようが、事業主の所得税や法人税の計算結果には特に影響ないわけです。
(但し個人事業主本人の生活費は必要経費として認められません。また法人の役員についても、その支出の性質や金額によっては、必要経費への算入に制限が設けられています)

これが問題になるのは、事業主自身の税金ではなく、従業員等の所得税(源泉所得税)に関してです。
源泉所得税は、事業主が給与から徴収している従業員等の所得税です。事業主は毎月の給与支給時に概算で所得税を預かり、これを従業員等に代わって税務署に納めています。

この源泉所得税の特徴は、納付義務者が従業員等本人ではなく、事業主(源泉徴収義務者)である点。源泉所得税の徴収もれ・納付もれがあれば、まず責めを負うのは事業主です。

金銭支給の給与についてその支給時に源泉所得税を徴収するのは、まだわかりやすいですが、上記のような経済的価値、いわば目に見えない「給与」についても源泉所得税は計算対象にしなければなりません。ただ、これを現実的に把握するのはかなり難しいです。このような特殊な「給与」が後日発覚した場合、事業主には納付もれ分の源泉所得税に加え、納期超過分の加算税(不納付加算税・延滞税)の納付義務も発生します。

給与に関してはいくつか、所得税の非課税項目が設けられています

「従業員によかれと思っただけなのに、余分な税金を負担するはめになるなんて不本意だ!」
そうですよね。
そこで、所得税にはこのような場合を想定した源泉所得税の非課税項目がいくつか設けられています。

まずは所得税法第9条「非課税所得」で挙げられている非課税項目。
この条文では、出張・転勤旅費、通勤手当、制服支給、公務員や船員・交替勤務者等の宿舎の家賃、船員に対する食事支給などについて所得税を非課税にする旨が記載されています。

さらにもうひとつ、所得税法第36条「収入金額」では、前提として経済的なメリットを受けた場合には所得税の対象となると述べていますが、これに関連する基本通達(36-21~)で、その例外として非課税になるものが列挙されています。たとえば雇用主が従業員等に渡す記念品、社員割引、宿直者への食事支給、宿舎の光熱費、研修費、社内イベント開催費、社宅家賃、そして今回のテーマである食事支給のうち一定額などです。

いずれも事業経営上必要な範囲の支出に限られますが、円滑に仕事をしてもらう上でかかる費用については、従業員等の所得税上課税はしない(もちろん事業主も法人税・所得税の計算上必要経費に計上できる)取扱いが用意されています。なおこの場合、性質にもよりますが事業主側では「福利厚生費」などの勘定科目で経理する場合が多いです。

前の2つは全額非課税、最後のパターンは一部本人負担

先ほど、給与に関する所得税の非課税には2つの条文(第9条・第36条)が関わっているというお話をしました。
この中から、今回のテーマである従業員等の食事代に関して言及している内容を探してみると、3つのルールが見つかります。

1つめは、所得税法第9条「非課税所得」による船員に対する食事支給
2つめは、所得税基本通達36-24「残業又は宿日直をした者に支給する食事
3つめは、所得税基本通達36-38の2「食事の支給による経済的利益はないものとする場合

このうち、上の2つはちょっと特殊な状況向け、そして当てはまる場合には「全額が非課税」です。
一方、3つめはそれ以外の一般の職場向け、この場合は「一部本人負担を条件に、事業主負担分が非課税」です。
以下、それぞれ詳しく見ていこうと思います。

所得税法第9条:船員に対する食事支給

特殊な職場向け、全額非課税のパターン。

船員法の適用される船舶、また船員法対象外であっても漁船の乗組員については、船舶の所有者等が自己負担で食料を支給する義務があります。この食料支給については全額が所得税非課税となります。
ちなみに船員法対象外の船舶とは、5t未満の船舶、湖・川・港のみを航行する船舶、30t未満の漁船etc。

船員法のこの条文、一定の船の場合さらに、食料支給専門の乗組員(司厨長 しちゅうちょう、と呼ばれるらしい)を配置しなければならない、という記載もあります。海上での食事、確かに命に直結しますもんね。

海がない山梨では実例には遭遇したことがないですが、船はちょっと特別な取扱いがあるんですね。
あれ?飛行機は対象にならないのかな?(調べてみたところ、飛行機は「船員法」ではなく「航空法」の対象なのでこの条文の適用はないようです)

所得税法施行令第21条第1号 非課税とされる職務上必要な給付
船員法第80条第1項(食料の支給)の規定により支給される食料その他法令の規定により無料で支給される食料

所得税基本通達9-7 船員法第80条第1項の規定の適用がない漁船の乗組員に支給される食料
船員法第80条第1項《食料の支給》の規定の適用がない漁船の乗組員に対しその乗船中に支給される食料については、その乗組員の勤務がその漁船の操業区域において操業する他の同項の規定の適用がある漁船の乗組員の勤務に類すると認められる場合に支給されるものに限り、令第21条第1号《非課税とされる職務上必要な給付》に掲げる食料に準じて課税しなくて差し支えない。

所得税基本通達36-24残業又は宿日直をした者に支給する食事

これも、やや特殊な状況向け、全額非課税のパターン。
通常の勤務時間外に残業や宿直をしてくれた従業員等に、事業主がねぎらいとして支給する食事は非課税となります。

所得税法基本通達第36-24 課税しない経済的利益……残業又は宿日直をした者に支給する食事
使用者が、残業又は宿直若しくは日直をした者(その者の通常の勤務時間外における勤務としてこれらの勤務を行った者に限る。)に対し、これらの勤務をすることにより支給する食事については、課税しなくて差し支えない。

所得税基本通達36-38の2:食事の支給による経済的利益はないものとする場合

最後はその他一般向け、一部本人負担のパターン。
この場合には2つの要件を満たす必要があります。どちらかが欠けてしまうと、事業主が負担した食事代は原則どおり給与として源泉所得税の対象となります。

①従業員等が食事の価額の半分以上を自己負担していること。
②事業主の実質的な負担額(※)が税抜7,500円/月以下であること。
※食事の価額▲従業員等の自己負担額

「食事の価額」は、事業主が購入する食事(弁当等)の場合にはその購入額、社員食堂など事業主が自前で調理する場合には調理に使用した材料費を指します。飲食店等のいわゆる「賄い」はこの材料費の方ですね。

たとえば自前で調理した食事を出す場合に、従業員等1人あたり1.2万円/月の材料費がかかるとすると、本人から6千円を徴収し、事業主負担額を実質6千円(1.2万▲6千=6千円)とすれば、この事業主負担額については所得税が非課税となります。なお従業員等が自己負担している6千円はそもそも経済的なメリットではありませんから給与の性質はなく、当然所得税の対象にもなりません。

所得税法基本通達第36-38の2 食事の支給による経済的利益はないものとする場合

使用者が役員又は使用人に対して支給した食事~につき当該役員又は使用人から実際に徴収している対価の額が、~食事の価額の50%相当額以上である場合には、当該役員又は使用人が食事の支給により受ける経済的利益はないものとする。ただし、当該食事の価額からその実際に徴収している対価の額を控除した残額が月額7,500円を超えるときは、この限りでない。

事業主負担額が3,500円→7,500円に切り上げされました

今回(2026/4/1~)改正となったのは、上記3つのうち、最後のパターンです。
さきほど記載したのは、改正の要件。改正はこうでした。
①従業員等が食事の価額の半分以上を自己負担していること。
事業主の実質的な負担額が税抜3,500円/月以下であること

改正前→改正後で、事業主の負担額が2倍以上に引上げられています。改正前の要件で先ほど例にあげたパターンに当てはめてみると、1.2万円/月の材料費について、本人から8.5千円を徴収し、事業主負担額を実質3.5千円(1.2万▲8.5千=3.5千円)とすれば、非課税の要件を満たせることになります。

しかし飲食品や光熱費が軒並みインフレしている昨今、事業主からの補助3.5千円では雀の涙、実質的な節税効果としても福利厚生としても、あまり意味がないのでは、という議論が数年来されてきていました。
この旧制度の事業主負担額が決まったのは1984年のこと。今から40年以上前の水準がずっと適用されてきたため、今回の改正は主に「上限額の設定が時代に合わなくなったので」という理由によるものです。

食事代相当額を金銭で支給してしまうと、対象外になります(一部例外あり)

「うちの職場には食堂がないけど、弁当の購入でも非課税の適用ができるなら、昼食代の半額を補助します、とかでいいんじゃない?」という考え方もあると思います。ただこの「お金を渡す」という行為についてはこの非課税制度、非常に使いにくく設計されているので、注意が必要です。

国税庁が出しているサンプル事例がこちら。「質疑応答事例:使用者が使用人等に対し食事代として金銭を支給した場合」。事業主が、従業員等が指定を受けた店で食事する費用の一部を負担することとした場合、事業主がその負担額を飲食店に直接支払うならば非課税制度が適用できるが、同じ金額を事業主と従業員等の間で精算する方法にしたならば非課税の対象外だよ、という回答になっています。

従業員等に「食事」ではなく金銭を渡すなら、その途中で色んな想定外が起こるでしょう?それで結局従業員等の手元に多めにお金が残るなら、それって実質的にはやっぱり給与でしょう?という話ですね。

ただこの金銭支給の場合、ひとつだけ例外があります。深夜(22時~翌AM5時)勤務者に対して食事代を支給する場合、金銭での支給であっても一定額まで非課税とすることができます。社員食堂も弁当屋もやってないような時間帯だろうから特別に、という意図だと思います。この制度の上限額も、1984年以降「1食あたり300円以下」とされていましたが、2026/4から「一食あたり650円以下」に改められました。ただこの特別扱い、深夜営業している店舗がかなり増えた現代は、実態とあまり合っていない気もします。

この例外を除き、外部の店舗での食事補助を制度化する場合、代金の支払は事業主が店舗と直接やりとりし、社員には上限額分のチケットを渡す、などの設計をする方法もあるようです。ただこんな取り決めをするのは双方にとって煩雑だからと、提携する複数のチェーン店やコンビニで毎月上限額まで利用できる共通チケットを発行してくれる専門業者もいるみたいです。世の中色んな商売がありますねえ。

職場って、いろんな場所にあります

この食事補助の話題が出ると、「大企業優遇の制度だ!」「中小企業に社員食堂なんて設備投資ができる資金力はない」といった声も聞こえてきます。

ただ、意外とこの非課税制度、中小企業でも利用する場面は多いです。
これは、あってもなくてもいいけどあるとオトク、という話ではなく、食事提供が当然の福利厚生として必要な職場が世の中けっこうあって、という話です。

名指しで挙がっていた船員などはもちろんですが、他にも離島や山間部の現場での勤務や、そこまで人里と隔絶された状況でなくても、交代制の病院や広大な専用区画内での勤務など、「ちょっとそこのコンビニへ」ができない状況で働いている方は多いです。

このような場合、社内で適時に温かい食事を提供することは、従業員の心身の健康とモチベーション維持のために非常に重要ですし、雇用主としても当然、その体制を整えて人材を採用しています。街中のオフィスに慣れていると実感が湧きにくい場合もあるかもしれませんが、このような現場を支える方々に過度な税負担を負わせることのないように、という考え方がこの食事補助をはじめとした各種の非課税制度の根底にあることをご理解いただければと思います。

おわりに

社員食堂、わたしも20代のころに勤めていた会社にありました。

港湾沿いの工業地域にある精米工場だったため周辺にコンビニや飲食店がない、という地理的状況もありましたが、取扱商品の性質上、従業員教育の一環という意図もあったのだと思います。

料理長さんが毎日手作りしてくれるボリューム満点の温かいおかずに、『今日の銘柄 ○○県産△△』と大書された札の下に据付けられたお釜から自分でよそう炊きたて白米。当時はあたりまえに思っていましたが、かなり恵まれた、そして面白い勤務先だったような気がします。食券はたしか1食250円程度だったような?

事業主負担が3,500円/月の時代でしたから、今にして思えば料理長さんは予算内でメニューを組むのが大変だったのではないかと。私の所属する経理と社員食堂は同じ管理部管轄だったので、雑談のついでに気安く「なんか最近、シチューの具が少ないです」とか暴言を吐いて、苦悩された覚えがあります。
その節は若気の至りで本当に、すみません…。

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