従業員に比べ、何かと福利厚生の手薄な事業主。
ただ、労災については、特別加入制度を利用して備えることができます。
現場に立つ経営者の方には加入をお勧めしています。
そもそも労災保険って
労働保険のうちのひとつです。労働保険とは、労災保険と雇用保険の2つを指します。労災保険は業務中のケガなどに備えるための保険、雇用保険は失業手当などの支払に備える保険です。この2つの保険は、従業員を雇っている限り、加入が強制されます。
なお、労災保険・雇用保険は毎年7月に、同じ申告用紙でまとめて保険料の計算・納付を行うため混同しやすいですが、前述の目的以外にも下記のような違いがあります。
・労災保険は業種事業ごとに保険料率が細分化されている(雇用保険は3業種だけ)
・労災保険は労働基準監督署が窓口(雇用保険はハローワークが窓口)
・労災保険料は雇用主が全額負担(雇用保険は従業員も一部負担)
なお、労働基準監督署・ハローワークの上部組織は各都道府県に設置された労働局です。
労働保険に関する、より詳しい情報については山梨労働局のサイトをご覧いただくか、地域の社会保険労務士会主催の相談会等でご相談下さい。
労災の特別加入とは
簡単に労働保険について説明しましたが、ここでポイントは、「労働保険の対象者は従業員」という点です。つまり、事業主は加入できません。また事業主の親族や法人の代表ではない役員も原則として加入できません。
なぜ事業主が労働保険の対象から除外されるのか。雇用保険については、事業主は自分自身を雇用しているわけではない、したがって失業することもない、という論理で説明できますが、労災保険に関しては酷な取扱いです。個人事業主や中小企業の社長は、経営のかたわら、現場でも率先して指揮をとっている場合が多いのですから、業務上のケガや災害に遭う危険性はむしろ高いからです。
そのため、事業主の労災に備える制度として、労災保険に設けられている特例的な取扱いが「特別加入」です。なお、従業員のいる事業主に関しては従業員に関する労災保険の手続が既に完了している場合に限り、特別加入の手続が認められます。また事業主が加入を選択した場合、事業主の親族も一括して加入する必要があります。
加入できる人は
・従業員数~50人までの中小事業主(業種により~300人の場合も)等
・従業員のいない個人事業主等
・その他特定の作業に従事する人、海外派遣者等
どうやって加入する?
特別加入の場合、労働基準監督署の窓口で自分で手続することができません。
従業員の労災保険に関しては、事業主が労働基準監督署の窓口に行けば手続をすることができますが、特別加入に関しては、必ず「労働保険事務組合」を経由して申込む必要があります。「労働保険事務組合」は、地域の商工会・商工会議所や業界団体、また社会保険労務士事務所に併設されていることもあります。山梨県内にある労働保険事務組合の一覧に関してはこちらの山梨労働局サイトをご参照下さい。
労働保険事務組合によっては、法人のみ、または個人事業主のみ加入手続を受けている窓口もありますので、依頼前に必ずその点を確認されることをお勧めします。
お近くに、同業種で加入済のお知り合いの方がいらっしゃれば、その方に聞いてみるのがいいかもしれません。また、地域の商工会等で相談されるのもよいと思います。
保険料の支払方法
・従業員のいない個人事業主の場合
ご自身の分の保険料について、事務組合の窓口に納付します。
保険料の他に、労働保険事務組合への手数料が発生する場合があります。
・従業員がいる場合
従業員分の保険料・事業主分の保険料を合わせて、事務組合の窓口に納付します。
こちらも同様に、保険料の他労働保険事務組合への手数料が発生する場合があります。
労災が起こってしまったら
基本的には従業員の労災保険と同じ取扱いですが、休業給付・年金などの計算の基礎となる日額の計算方法に特徴があります。
療養にかかる費用は全額保険から支払われます
療養にかかる費用 = 治療費については、全額が労災保険から支払われます。
労災(指定)病院での治療の場合は窓口負担なし、その他の場合には後日申請をすることにより治療費の支給を受けることができます。
休業給付・年金等は自分で選択した給付基礎日額の設定を元に計算されます
実際の給与額を元に保険料を計算する従業員の労災保険と異なり、特別加入の労災保険は補償額の計算基礎(給付基礎日額)を自分で選択することができます。給付基礎日額は3,500円~25,000円まで、16段階の設定があり、この日額を選択することによって年間の保険料負担額も自動的に決まります。
なお日額の選択によって、給付額・年金額は変わりますが、前述の治療費の全額保険負担に関してはどの段階の日額であっても同様です。
具体的な日額や、給付額の計算方法に関しては厚生労働省サイトに掲載されている「特別加入制度のしおり」をご覧いただくか、地域の商工会等窓口・社会保険労務士会の相談会などでご相談下さい。
業務上の災害(通勤含む)に限り、保険給付の対象となります
業務外の災害と認定された場合、保険の適用外となります。その場合治療費に関しては健康保険を利用(本人負担発生)、休業給付や年金も対象外となるため、療養期間中の生活費などは民間の保険で手当することとなります。
生活と事業が密着している事業主の場合、従業員よりも業務外と認定される場面が多いことは懸念点です。これを理由に、加入に消極的な方、民間保険を優先的に選択される方も多いのですが、労災保険は公的保険として民間の商品よりかなり保険料も抑えられてはいるので、まずは最低限の保障としてのご検討をおすすめします。
健康保険入ってるし、大丈夫じゃないの?
業務外のケガの治療費、健康保険の制度により3割の自己負担をしている方が多いと思います。(残りの7割は医療機関から各健保に支払請求)
「3割ならそもそも大した自己負担額じゃないし、この上労災保険に加入しなくても健康保険だけで十分じゃない?」と言われることもあります。
でも、そのケガ、もし業務上のものであると判明したら、どうなるかご存じですか?
健康保険は業務外のケガに限定して適用される制度です。
業務上の災害は労災保険で手当てすることになっているため、ケガの原因が労災と分かった時点で健保は医療費の支払を拒否します。そうなると、自己負担は3割ではなく10割となります。
医療機関の窓口でいきなり全額負担を求められることは少ないと思いますが、ケガの状況や治療費の額によっては、健保から後日審査が入り、請求を却下されることがあるようです。(と、知り合いの社会保険労務士さんから聞きました)
現状どの健保も財政状況が潤沢とはいえないため、今後このようなチェックはより厳しくなると予想されます。
軽いケガであれば、治療費を全額負担したところでしれているかもしれませんが、大ケガをしてから後悔しても取り返しがつきません。危険度の高い職場・職種の方であれば、早い段階でのご加入を強くお勧めします。
はざまのひとりごと
いざという時に備えるのも経営者としての大切な仕事です
日々の経営の中で必須の支払は多く、いざという時の備えは後回しになりがちです。
過度な保障をかける必要はありませんが、小規模な事業は事業主の健康な身体があってこそ。想定外の事態が起きたときのために準備をしておくことはとても大切です。
おわりに
私も個人事業主、開業してからは不慮のケガや病気の怖さを身にしみて感じています。
何もないのが一番ではありますが、何かあったときこそ現状を見直すよいチャンスなのかもしれません。末永く自分らしい仕事を続けられるよう気を配っていきたいです。
